ぼくは今日で18歳になった。
出会ったときの先輩と同じ、18歳になった。





テーブルの上には、食べ散らかしたあと。
ころがった空き缶。

ホットカーペットの上には、疲れて転がった数人の友達。
もちろん友樹も。






友樹の一言で開かれた、ぼくのバースデーパーティー。
この歳になって、そんなもの恥ずかしいからと断ったけれど。
ただ騒ぐための名目が欲しいだけだからと承知させられた。

そのくせ、みんな律儀にプレゼント持ってきたりなんかして・・・・・・





みんな、卒業したらバラバラになり、それぞれの道を歩んでいく。
希望と不安を胸いっぱいに抱えて。





日本という、ぼくが生まれた国で迎える最後のバースデーを。
仲間に祝ってもらえるなんて、素敵なことだ。






けど・・・・・・





ほんとうに、祝って欲しい人はここにはいない。
家族も、愛する人も、みんなここにはいない・・・・・・





数日前、先輩はぼくの家族のお墓参りのため、スケジュールを空けて帰ってきた。
3月からの東京での生活のため、荷物を整理し、帰って行った。








―――ぼくの誕生日には帰ってこれますか?








そんなこと聞けなかった。言えなかった。
仕事が忙しいと連発していた先輩は、クリスマスもお正月も帰ってこなかった。
今回の帰省は、荷物の整理のためだってこともわかっていた。





だから、帰ってこれるはずがない。
ううん、もしぼくがそんなことを言えば、たとえ何があろうと帰ってきてくれたかもしれない。
けど・・・そんな無理はしてほしくない。
ぼくは先輩の足かせになりたくない。
それに、これ以上先輩に会えば、ぼくの決心もにぶってしまいそうで・・・・・・





そう思いながらも、期待しているぼく。
玄関チャイムが鳴って、帰ってきたよと、笑顔で抱きしめてくれるんじゃないか・・・・・・
そんなバカみたいなことを思い描いているぼく。
ケータイが鳴って、お誕生日おめでとうと、優しく耳元で囁いてくれるんじゃないか・・・・・・
そんな些細なことさえ待っているぼく。





リビングの壁時計が12時をさした。
ぼくの誕生日は終わった。








結局、ぼくがこの世に生まれたことを、先輩に祝ってもらうことは一度もなかった。
先輩に出会って初めての誕生日。
家族の死というとんでもなく大きな渦に巻き込まれていて。
自分の誕生日なんかすっかり忘れていた。




先輩に出会って二度目の誕生日。
その数日前に先輩と初めて夜を明かして、幸せいっぱいで。
自分の誕生日なんかすっかり忘れていた。




そして今年は、覚えていたけれど、一緒に過ごすことはかなわなかった。





でも、ぼくは先輩をほんのこれっぽっちも恨んだりなんかしていない。
きっと先輩は、昨日も今日もそして明日も、夢の実現に向かって進んでいる。
それでいいんだ。
先輩は、ただそれだけを考えていてくれればいい。
そうでないと、ぼくがいなくなる意味がなくなるから。





ぼくは、どっちかと言うと神様や運命なんてものを、信じているほうだ。
そのほうが、あきらめがつきやすいから。
自分の心を守るには、そういう方法しか思いつかないから。
だからこそ、ひとりで生きていけるのかもしれない。





これからひとりで生きていくぼくは、それでも先輩を忘れないだろう。
先輩の20歳の誕生日に約束をした。
これから、毎年、ピアスをプレゼントするって。
たとえ、先輩の手に届くことはなくても。
ぼくは毎年プレゼントを買い求め、誕生日を祝うだろう。






ぼくの誕生日なんていらない。
先輩がこの世に生まれてこなければ、ぼくが生まれてきた意味がないから。



ぼくの誕生日なんていらない。
祝ってほしい人に、祝ってもらえないなら、ただの悲しい日なだけだから。






だから、これからは・・・・・・





4月15日がぼくのいちばん幸せな日。
ぼくのいちばん大切な日。





 

〜Fin〜






                                                                       


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